鬼の目にも慕情

「はい、そこでストップ。準備はいい?では、オープン!」
掛け声とともに明るくなった視界。その先には、本棚があった。
見慣れてる本棚だけど、一つだけ違うところがある。
「あ、これ。花が咲いてる」
小さなサボテンの上にちょこんと咲いた赤い可愛らしい花。
「こんな花が咲くんだね。綺麗」
「あぁ」

買ったのはもう、1年くらい前だったか?毎日眺めても、成長してるのかどうかわからなくて、本当に花が咲くのかと思いながらも育ててきたサボテン。
それでも水やりが日課になってきて、忘れてると由乃から指摘されるまでになった。
こいつは、俺と由乃が出会って間もないころからずっと見守ってくれてるんだよな。

あの時、勢いで買ってしまったサボテン。こまめに水やりなんかするタイプじゃないから、そのうち枯らしてしまうだろうなって期待もしてなかった。
店には、花が咲いたら願いが叶うなんて書いてあったけど、そこまで辿り着くなんて思ってもなかった。
だけど、サボテンを育てだしてからというもの、喫茶店で由乃に会うたびに、「すくすく育ってますか?」「時々日光浴させてあげるといいみたいですよ」なんて会話が広がるから、意地でも枯らす訳にはいかなくなった。
もし、本当に花が咲くのだとしたら、その時には一緒にその花を眺めたいと願ったっけ。
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