鬼の目にも慕情
「小澤さん!大丈夫ですか?」
急に頭上から声が降ってきた。えっと…。
「意識はありますね。えっと、どうしよう。とりあえず、店の中に入りましょうか。動けます?」
あぁ、喫茶店の店員さん。たしか、八城さんっていったっけ。なんで彼女がこんなところに?

そっと触れられた腕に、重たい痛みが走る。
「う…」
「あ、ごめんなさい!怪我してるんですか?」
しまった。必要以上に驚かせてしまった。でも、筋肉痛だなんて言ったらかっこ悪くないか?ダサいよな。

「ちょっと、仕事で。でも、大丈夫です」
あちこちで悲鳴を上げる筋肉を黙らせて、力の限り体を起こす。
「今からまたすぐに戻らなきゃいけないんです。これを同期に届けるという任務もありますので」
なんの宣言だ、これ。かっこよくもなんともないぞ。これこそダサいぞ。

「それはそれは、お疲れ様です。本当に大丈夫なんですか?
あの、だったら、お願いがあるんです。
これを榊さんに届けてもらえませんか?注文されてたコーヒー豆なんですけど、最近忙しみたいで取りに来られないって連絡があって」
「構いませんよ、渡しておきます」
「ありがとうございます。
あ、それと、カフェインはほどほどにって言っておいてください」
はぁ、可愛い。こんな奥さんをもらえた男は前世でどれだけの徳を積んだんだろうな。
それに比べて俺は、前世で一体何をしてたのかな。
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