鬼の目にも慕情
寮の中にある喫煙室。
換気扇の下の席に、柿原隊長は座っていた。
任侠映画のワンシーンみたい…。
俺は、今すぐに灰皿を差し出すべきだろうか。

「柿原隊長、たばこ吸われるんですね。初めて知りました」
「禁煙してたんだが、ここ数日、大きなストレスがずっと続いててな。吸わなきゃやってらんなくなった」
それって、もしかしなくても俺の事ですよね。その目つき、まじで怖いな。
たばこ咥えて睨みつけられるって、恐喝でもされてる気分なんですけど。
誰か、俺を護衛してくれませんかー?

「柿原隊長、昨日の事なんですが…」
「あぁ」
吐かれた煙が換気扇に吸い込まれていく。
余裕な柿原隊長を前に、ごくりと唾をのんだ。
「今まで何度も呼び出して悪かったな」
え?
「見られたから言うわけじゃないが、もともと話そうとは思ってたんだ」
悪かった!?
あの柿原隊長が俺に謝った!?
どういう風の吹きまわしだ?
いやいや、これでも本当に悪かったって思ってるってことなんだろうな。
「いや―…。
誰でも秘密の1つや2つ持ってますからね。八城さんと結婚してたっていうのはびっくりしましたけど、お、お似合いだと思います」
「で、誰に喋った?」
やばい!
一気に殺気立った。
「あ、天海勇哉です。
じ、実は、彼は俺よりも先に柿原隊長の既婚に気づいてまして、それで…。
もちろん、他の人には言ってません。俺も、天海も」
「へー」
ジリジリと煙草を灰皿に押し付けた。
次は、俺の番ですか…?
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