鬼の目にも慕情
翌朝、いつもは見送られる俺が由乃を見送ってる。
昨日は深夜までごね続けたけど、「すぐに帰ってくるから」の一言にやられて留守番することになってしまった。
あれから、急いでてるてる坊主を逆さに吊ってみたけど効果なし。
台風でも嵐でも何でも来いよ。
交通機関がダメになれば合法的に引き留められる。

なのになんだ、この晴天は。
雲一つない綺麗な空を見せつけやがって。

まじか。
ひとりで留守番かよ…。
マンションの下まで引っ張って行ってるスーツケースが重たいぜ。

「スーツケースありがとう」
「あぁ、気を付けて」
引き渡すスーツケースを持つ手に力が入る。
…渡したくない。
なのに、すっと奪われてしまう。
こういうとき、由乃の力って意外と強いんじゃないかと思うんだよな。
容赦ないよな。
「着いたら連絡するね。
冷蔵庫にご飯を冷やしてあるからチンして食べて。それから、洗濯物は畳んでソファーの上に置いてきたから。
あとは…」
おっと。
いきなりぎゅっと抱き着かれた。
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