コーヒーのお味はいかが?
思い出したくもなかった。

でも走馬灯のように、過去が呼び起こされる。

悔しさが込み上げてきて、グッと下唇を噛み締めた時。


「・・・ん、結可ちゃん!」


腕を捕まれ、引き止められる。


「ごめん。傷つけたなら、謝る。だから、その・・・まだ、帰らないでよ」


あの人は、決して謝らない。

でも、桐原先生は今は謝罪を口にした。

あの人と桐原先生は、違う。


「それと、これは受け取れない」


先ほど置いてきたお金を、あたしの手に握らせる。

そして、大きな深呼吸をした。


「久々に走ったら、ダメだね。すぐ息が上がる」


額に汗を滲ませ、桐原先生は綺麗な顔に笑みを浮かべた。

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