コーヒーのお味はいかが?
「もう遅いし、送るよ」


何事もなかったかのように、桐原先生は口にする。

そして、あたしの手を引くと歩き出す。


「明日、仕事?」

「はい。桐原先生も、お仕事ですか?」

「うん。あのさ、彼女になって欲しいって言いながら、その、あれなんだけど・・・俺の仕事、結構不規則でさ。ロクに、時間とか作れないけど大丈夫?」


都合が悪そうに、桐原先生は尋ねる。

たぶん、そこは普通の子より理解があると思う。


「はい。あたしのことは気にせず、お仕事頑張ってください」

「俺は、結可が気になって仕方ないんだけど」

「桐原、先生?」


立ち止まった桐原先生に、あたしも立ち止まる。


「結可には「先生」って、呼ばれたくない。名前で欲しい」


・・・知らない。

あたし、桐原先生の名前も知らないんだった。

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