氷河くんのポーカーフェイスを崩したい。
 片方の耳からイヤホンをはずすと、

「昨日のこと口止めしに来たなら。別に誰かに話すつもりもないから」

 そう言ってイヤホンを戻した。

「そんな話をしにきたわけじゃない」

 当麻氷河の左耳からイヤホンを取り上げ、自分の耳に装着する。

 聞こえてきたのは、洋楽。

 それもアーティストもタイトルも知らない、一度も聴いたことがない曲だった。

「……意外。ラップとか聞くんだ。なに喋ってるかわかるの?」

 わたしの問いかけには答えず、筆箱からもう一本シャーペンを取り出す。

 見ると、数学の課題に取り組んでいるようだが。

「それ、次の時間に提出するやつじゃん」

 およそ10分後には授業が始まる。

 けっこう時間かかったよ。

 まあ、わけがわからなくて、クラスの秀才くんに見せてもらったんだけど。

 それでも丸写しするだけで10分くらいかかった。

「間に合わないんじゃない?」
「間に合わせる」
「諦めなよ」
「その選択肢はない」

 当麻氷河はさらさらと問題を解いていく。

 やるじゃん。

 わたし、ぜんぶ暗号にしか見えないのに。

「なんで家でやってこなかったの」
「やろうとして寝落ちした」
「寝ずになにしてたの」
「ちょっと黙ってろ」
「言えないことしてたんだー?」
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