氷河くんのポーカーフェイスを崩したい。
◇
「ほんとにいいの?」
サービスしてもらえるのは学生の身としては助かるんだけど、一円も払わないのはどうも気が引ける。
メニュー見たら安くはない料金設定だったし。
「店長がいいって言ってるんだから。甘えときな」
「でも」
「教室では甘え上手なエリナも。こういうとこだと律儀だねー?」
「……ごちそうさまでした」
沙里に見送られ、店を出る。
沙里が終わるのを待っていたら21時をすぎてしまうから、ここらで切り上げて帰ることにしたのだ。
時刻は20時。
明かりのついたガソリンスタンドに、アイツの姿はない。
休憩かな?
「依里奈」
「……っ」
交差点付近に立っていた当麻氷河に、呼ばれた。
そっちにいたんだね。
今立っている場所から見てガソリンスタンドと反対方向だから気がつかなかった。
赤が緑に変わる瞬間を、ここまで心待ちにしたことがあったろうか。
青信号になると、アイツが横断歩道を渡ってくる。
来なくていいのに。
……わたしから会いに行くから。
「小松さんのとこ来てたんだな」
なんで知ってるの。
そっちから、見えてた?
「あがり?」
「いや」
まだ働くんだね。
「雨、やんでよかったね」
「駅まで送る」
「え?……いいよ。仕事中でしょ」
「休憩とってきた」