氷河くんのポーカーフェイスを崩したい。
「ふーん。そこまでして期限守りたい?」
「不倫が未遂で終わったから」
「だから不倫なんかしないって言ってるでしょ……!!」
「わかんないよ。纐纈さん」

 初めて名字で呼ばれた。

 お前、じゃなくて。

「たとえばアイツが本気で襲いかかってきたら。止められないだろ」
「全力で止めてやる」
「なら。いっかい襲われてきたら」
「……な」

 わたしの耳からイヤホンをはずすと、

「悪巧みもしなくなるだろ」

 それを自分の耳につけ、図書室から出ていく。

 やっぱり極寒男は南極の氷のごとく冷たい。

 それでも一瞬みせた悪魔みたいな顔は熱く焼き付いたままで。

「……うっざ」

 薄いグレーをした瞳だけは、もう少し見ていたかった気もする。
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