氷河くんのポーカーフェイスを崩したい。
 特技なんてない。

 会話だってうまくない。

 そんな風に卑屈になっていたわたしが、

『その髪型かわいーね』

 身なりを気にするようになった。

 寝癖も校則通りの制服もNG。

 周りの誰よりもはやくピアスをあけた。

 すると、みんながわたしに注目するようになった。

『纐纈さん、俺がゴミ持ってくよ』
『お前ずりぃんだよ』
『抜け駆け禁止』
『そ、そんなんじゃ……』

 信じられないくらいチヤホヤされた。

『××くんが、依里奈のこと好きだってー!』

 痩せてお洒落したわたしを笑う人、誰もいなくて。

 人に好かれるのってこんなに簡単なことなのか、と驚いた。

 でも――

『ねえ。エリナうざくない?』

 そんな生活も長くは続かなかった。
< 183 / 617 >

この作品をシェア

pagetop