氷河くんのポーカーフェイスを崩したい。


 ◇


「俺のおかげで赤点回避は確実だね」

 成澤の授業は、おもいのほかわかりやすかった。

 それは一年先輩だからというより、純粋に、人に教えるのが上手いのだ。

 つくづく侮れないな、この男。

「お礼はほっぺにチュウでいいよー?」

 駅までの帰り道

 急接近してくる成澤をわたしからはがすと、

「俺でよければしましょうか」

 真顔でそんなことを言ったアイツ。

 本気か冗談かわからないそれ、やめろ。

「えー……。そっちの趣味ないんだけど」
「俺もありません」
「氷河のファーストキスは。エリナちゃんに残しておいてあげるよ」

 もうしちゃったてたり。

 そんなこと成澤に言えるはずもないけど。

 あのときは、雰囲気に呑まれたっていうか。

 完全に流れで。

 ……また、コイツとそういうことになる気がしないな?

「もうしました」
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