氷河くんのポーカーフェイスを崩したい。
 帽子かぶってて。

 制服着てて。

 すっと伸びた背筋で一礼してるとこも、窓吹拭いてるとこも。

 なにしててもカッコよくてさ。

 サービス業なのに全然笑顔じゃないのは、なんか笑えたんたけど。

 そういうの含めて――

「ああ。この人が好きだなって思った」

 ……だから、ね。

「わたしの特別は」

 アイツがわたしを抱き締めている腕を、ギュッとつかむ。

「あんただけ」

 イライラするなっつーの。

 いや。

 わたしのことで崩れる当麻氷河、

 ちょっと見物だけど――……

 とか思ったことは絶対にナイショ。

「でも。……あんたには、アイスホッケーがあるもんね」

 アイスホッケーの思い出だらけのこの部屋に来て、楽しい反面、ちょっと妬けてくる。

 アイスホッケーが好きな氷河くんが好きなのに。

 アイスホッケーに氷河くんの心を奪われっぱなしになるのは複雑。

「バカだな」
「ちょっ……」

 アイツの手が、制服の上から、わたしを撫でる。
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