氷河くんのポーカーフェイスを崩したい。
 あのとき、成澤がわたしを見てそんなことを考えていたとは思わなかった。

「興味が湧いた。ほんの少しだけ、君に」
「そんなことで?」
「インパクトあったからね。派手なネイルして見事にキャッチ」

 たしかに、わたしが成澤の立場なら多少は印象に残ったかもしれないけど。

「そして4月。君が入学してきたこと。氷河と同じクラスになったこと。男子からチヤホヤされてることを知った。だからと言って近づくことはなかった」
「でも……近づいてきた」
「君には氷河にだけ見せる顔があって。あの氷河が女を傍に置くことを許していた。その理由が無性に知りたくなったんだ」

 だから、会いに来た。

「最終的にはマネージャーにするために?」
「わからない」
「……え」
「氷河に合わせて頷いてみた。君の利用価値はうちの部で大いにあると思ったから。でも。俺は、君をどうしたかったんだろう」

 そういうと、成澤はわたしから離れ、

「シラけちゃったなー。帰るよ」

 床に置いていた鞄を持ち上げた。

 中には筆箱くらいしか入っていなさそうな薄さだ。

 最終日だったとはいえ荷物が少なすぎる。

 成澤にとって定期テストは自習と変わらないくらいラクな気持ちで挑めるものなのかもしれない。

「今の話。忘れていーよ」
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