氷河くんのポーカーフェイスを崩したい。
 ホテルみたいに広く長く天井が高い廊下に成澤とやってくる。

 トイレくらい1人でいきたいがこの家だと迷子になりかねないから仕方ない。

「あんたのこと、アイツが慕う理由。なんか少しわかった気がする」
「んー。結婚したいって言った?」
「言ってない」

 悔しいけど、こいつは魅力的だ。

 スケート靴を脱いだあとも。

 普段ナルシストなクセに、今みたいに褒めると茶化すとこあるよね。

 俺のおかげでテストの点があがったろって言ってきたとき肯定したら少し照れ臭そうにしたこと――わたしは見逃してないからな。

「氷河と俺の出会い。聞いた?」

 成澤の問いかけに頭を横に振った。

「アイツが中学の時から練習に参加してたことと。それが成澤の誘いだってのは藍さんから」
「そっか。まあ、これは氷河のプライベートも含まれてるから俺が軽々しく話すのも違う気がするし。知りたくなったら本人から聞いてみてよ」

 もしかして、ブランクがあるって言ってたのが関係してる?

 わたしはてっきり、当麻氷河の人生は、アイスホッケーありきだと考えてきた。

 いや、実際にそうなのだろう。

 ずっと夢中だという本人の言葉に嘘はない。

 それでもアイスホッケーから離れていた経験があるの、だとしたら。

 それはどうしてなんだろう。
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