氷河くんのポーカーフェイスを崩したい。
「……ごめん」
「なんで謝るの」

 価値観、押し付けて。

「わたしの普通って。成澤の普通じゃないんだよね」

 ただ自分が理解できないことを理由に否定するのは、間違っていた。

「別にいいよ。エリナちゃんの意見が多数派であることには違いないし。俺のやってることが倫理的によろしくないのは自覚済みで。そのうえでしてるんだし」
「だったらどうして……響いたの?」
「そんなの。君に言われたからに決まってるでしょ」

 どういうこと?

 わたしの言葉は成澤に響くの?

「チャンス」
「……っ!?」

 成澤の頭が、

「しーっ。氷河に見つかる」

 わたしの膝の上に。

 おい。コラ。

 人差し指たてて口元にあててる場合か。

「どいてよ」
「いいじゃん。減るもんじゃないし」
「……子供みたい」

 年上なのに。

「母親って。こんな風に甘えさせてくれる?」

 ……え?

「耳掻きとか。風邪ひいたときの看病とか。俺はかかりつけの医者やメイドに世話になってきたから、そういうとこから普通がどうって想像しにくいんだよね」
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