氷河くんのポーカーフェイスを崩したい。
「ねえ。このあと、なにするの?」

 わかってるよ。

 真っ先に練習でしょ。

 マラソンと筋トレもするよね。

 待てよバイト入れてる可能性もあるな。

 弟たちと遊んだりもするのかも、みんな夏休みだし。

「俺は依里奈といる気でいるけど」

 ――え?

「お前は。ちがうのか」
「ち……がわない」

 嬉しい。

 もっと一緒にいたいって思ってるの、わたしだけじゃなった。

「どこ行く」
「氷河くんのいえー!」
「覚悟。できてんの」
「へっ……」
「膝枕」

 ――怒ってる

「逃げようと思えば。逃げられたろ」

 返す言葉がない。

 あのとき、成澤に甘えられて拒めなかった。

 なぜか成澤から微塵もやらしい気持ちが感じられなくて。

 あの男はわたしに安らぎを求めていた。

 でも、そんなの言い訳にならない。

「止められなかった俺も俺か」

 電車から降りるとき、

「あとで覚えてろ」

 ボソッと耳打ちされた言葉に既心臓が破裂しそうになったのは、言うまでもない。
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