氷河くんのポーカーフェイスを崩したい。
 一階、リビングの向こうにある和室には

「……なに、話したの?」
「纐纈依里奈さん。俺の彼女」

 仏壇があった。

「同じクラスの子で、俺が初めてアイスホッケー以外に夢中になってる大切な女性――って紹介した。あと。帰りは送り届けるし泊めるならご両親に許可もらうから心配するなって」
「……氷河くん」
「話してなかったな。でも。なんとなくわかってたろ」

 そこには、幸せそうに笑っている夫婦の写真が飾ってあった。

 氷河くんのご両親だ。

「事故で他界した」

 立派な家に住んでいる氷河くんが、週末にバイトをフルで入れているのも。

 まだまだ甘えたがりな年頃の弟くんが、しっかりしているのも。

 この家に『ヤローしかいない』と言っていた理由も今ならわかる。

「親が残してくれた金があるうちは、それなりに暮らせるけど。贅沢はできない。しちゃいけないと思ってる」

 アイスホッケーにブランクがあるのも。

 本格的に続けられなくなったのも、これが理由?
< 356 / 617 >

この作品をシェア

pagetop