氷河くんのポーカーフェイスを崩したい。
 放たれたのは、力強いシュート。

 打つ瞬間、

 アイツは右脚を宙に浮かせ

 見ているこっちが『倒れちゃう』と息を呑むくらいカラダを傾けていた。

 ああすることで体重がスティックにかかり――強力なシュートが打てたのだ。

 アイスホッケーのパックは、最高速度が時速180キロもでると言われている。

 そんなのが飛んできたら怖いだろう。

 逃げたくなるだろう。

 でも、イガラシさんは恐れていない。

 止める気でいた。

 なんて度胸なんだろうと思う、本当に。

 シュートは単に力任せに打てばいいというわけじゃない。

 通常時まっすぐなスティックを曲げ――戻る反発で、シュートの速さが増す。

 パックの少し後ろの氷を叩くことでシャフト――()の部分を、しならせることができるらしい。

 体勢を崩し、スティックに大きな【しなり】をつけ、あんなにも強力なシュートを出せたというわけだ。

 と、こんなことを言いながら実際にはまだ理解できていない。

 ピンと来ない。

 氷の上どころか陸上ですらそんな動きを真似られないから。
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