氷河くんのポーカーフェイスを崩したい。
「おやおや。夜更かしですか?」

 近づくと、ほんのり香ってきたのはアルコールのにおいだった。

 それとは別に甘い香りもする。

 なんだろう、香水か?

 ほんとに呑んでたんだな。

 部屋で、一人で……?

「ちがいます。洗濯機をまわしに」
「やっておきましたよ」
「え!?……すみません」
「いえいえ。ボタン押しただけですから」

 乾燥機が動いていて、洗濯機では2回目の洗濯がスタートしたところだ。

 ほんとにやってくれている。

 じゃあ今わたしが持ってきたのは3回目だな。

 どんなけあるんだよ洗い物。

「って、こんなことするなら。練習の方に顔だして下さいよ」
「出してますよ?」

 もっとです。

 それに、合宿に限らず日頃から。

「私は監督でもコーチでもないので。常にいる必要ないのです」
「でも。見守ってくれる大人、先生しかいないですし」
「たいしたアドバイスもできないのに?」
「……もっと選手と過ごす時間あった方がいいかなって思いますよ」
「雀の涙ほどの手当てで、こうして貴重な長期休暇中に拘束されてあげているだけでも優しいと思いません?」 
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