氷河くんのポーカーフェイスを崩したい。
「ふーん。ちがうんだ」
「あなたも。【彼】の前では変わるでしょう?」

 どうだろう。

 まあ。

 ……違わないことは、ないか。

「仲良くするのは結構ですが。学生のうちは清いお付き合いを心がけて下さいね」

 ――――!

「責任もとれない子供が大人の真似事をするのは感心しません」
「……真似事だなんて」

 そんな言い方することないじゃないですか。

「背伸びしたい年頃なのでしょう?」

 そんなんじゃない。

「自分は大丈夫だ、と。甘く考え行動しないように」

 甘く……考えてなんて。

「傷つくのは君ですから」

 なんでこんな話、わたしに、するんだろう。

「――なんて。聖人でいるのは非常に疲れます。柄じゃない」

 ……え?

「さっさと食べて。寝ることにします」

 ワントーン声が低くなったフジオは、

「ところで」

 冷めきった目で

「いつまでいるんです?」

 ……いつも以上に気だるげで。

「襲ってほしいんですか」

 眼鏡を外し机に置くと

 割り箸を割って、お弁当を食べ始めた。
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