氷河くんのポーカーフェイスを崩したい。
「あ、これですか」
「そうです」

 テーブルの上に薬の入れ物が置いてある。

「なんの薬?」
「ただの睡眠薬ですよ」

 え……?

「どうも」
「待って」

 フジオに手渡す前に、わたしはそれを自分のズボンのポケットに入れた。

「どういうつもりですか」
「……だって」
「返しなさい」

 先生、睡眠薬ないと眠れないの?

「お酒とお薬。同時にとったら危ないって、聞いたことある」
「酒は抜けています。問題ありません」
「ほんと?」
「はい」

 ――いつ死んでもいい人生

「ヘンなこと、考えてませんよね?」
「なんです。変なことって」
「えっ……と」
「単純に眠っておいた方がいいとしか考えていませんよ?」

 そういうと、フジオがシャツのボタンを外し始めた。

「なんで脱ぐの!?」
「そりゃあ。着たまま寝たらシワになりますから」

 それもそうか。

「さっきから変ですよ」

 わたしが変なの……?

「あれ」
「なんですか」
「いや。先生、ネックレスとか。してるんだなって」
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