氷河くんのポーカーフェイスを崩したい。
 潮風で揺れるサラサラの黒髪。

 切れ長の奥二重。

 口元のほくろ。

 尖った顎。

「……チサト?」
「久しぶり」

 中学時代

 誰にも流されないで

 わたしが唯一【自分】を見せられた人。

「チサトなの?」
「信じられない?」
「だって。また……会えるなんて」

 永遠のサヨナラって気がしてた。

 連絡先も聞いていなかったし。

 チサトがカフェまで訪ねて来てくれるなんて思ってもみなかった。

 目の前に、チサトがいる。

 泣きそうなくらい嬉しい。

「面白い人だな。全然知らない僕のこと、こんなところまで連れてきて」

 白鳥さんと沙里のことを言っているのだ。

「わたしもビックリだよ」

 沙里には、チサトのことを『大事な旧友』と伝えておいたのだけど。

「強引に誘われて仕方なく……って感じ?」

 だからって、当時、そこまで仲良かったわけじゃない。

 学校で一番わたしが話しやすいと思っていただけ。

 外で遊んだこともなかったし、チサト自身は自分のことをそんなに話さなかった。

「いいや。興味あったから」
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