氷河くんのポーカーフェイスを崩したい。
 わたしがチサトを変えてしまったの?

「他の子じゃ。ダメなの?」
「ダメだ。纐纈がいい」
「……ごめん。わたし」
「好きなんだ」

 ――――!

「僕のことみて」

 まっすぐに真剣な眼差しを向けてくるチサトから目をそらせない。

「ほんの僅かな間だけでもいいから」
「……っ、ごめんなさい」

 チサトの手がわたしからはなされる。

「そうか。なら、仕方ないな」

 切なげに笑うチサトにかける言葉が見つからない。

「纐纈のこと。不幸にしたいわけじゃないから」
「……わたし、嬉しかったよ。筆記用具貸してくれて」
「筆記用具?」
「覚えてないの? あの頃、女子から嫌がらせ受けてて。隠されたり捨てられたりしてたでしょ。わたしを助けてくれたのチサトだけだった」

 チサトが目を見開く。

 そして、今度は優しく微笑んだ。

「そうか」
「……チサト?」
「僕から近づいてしまっていたんだな」
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