氷河くんのポーカーフェイスを崩したい。
「離して」
「もしもケジメをつけられたら――期限つきじゃない恋なら」

 ほんのり漂ってくる香水の香りに、アイツじゃない誰かの腕の中にいるのだと実感させられる。

「少しは考えてくれるか」
「……重いよ。チサト」

 なにもかも捨てるつもり?

「自分でもそう思う。こんなに未練がましい男だったんだなと。呆れてしまう」

 呆れたりなんて、しないよ。

 ただ、わたしはチサトの想いを受け入れられない。

 それが、苦しい。

「……ごめん」
「纐纈」
「ごめん」

 他に言葉が出てこない。

「最後に一つだけ」
「え?」
「これ以上困らせないから。ワガママきいて」

 ……ワガママ?

「キスさせて」

 ――――!

「それで。きっぱり諦めて。二度と目の前に姿を現さない」
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