氷河くんのポーカーフェイスを崩したい。
 わたしたちだって。

 今のままじゃ、大きな試合には出られないかもしれませんが。

 全力で進みますよ。

「今日。ロークオリティなんて言わせません」

 わたしの言葉に目を丸くさせる顎髭さん。

「あ、ごめんなさい。……生意気なこと」

 格上相手にケンカ売ってしまった感が。

 サーッと血の気が引いたとき

「ちゃうちゃう」

 顎髭さんがニッと笑いかけてくれる。

「少なくとも俺も剛も、今日ベンチに入るメンバーかて意義があると思て来とるから。結果がどうであれロークオリティなんて言わんわ」
「……顎髭さん」

 とってもいい人だ。

「顎髭さんて」

 クシャッと笑う。

稲田(いなだ)や」
「イナバさん!」
「それは物置や。100人乗っても大丈夫なやつや」
「え?」
「イ・ナ・ダ」

 あ、イナダさん!

「今日は、よろしくお願いします、イナダさん!」
「こちらこそ」
「えっと。ゴウさんも。よろしくお願いします」
「……お、おう」

 急にフラフラッとしたゴウさん。

 どうしたの?

「あー、もう。剛さんはホンマ女の子に弱いんやから」
「せめて5分くらいまともに話せるようになったらええのに」

 後輩に支えられ、去っていく。

「ほなね」

 イナダさんも控え室の中へ。
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