氷河くんのポーカーフェイスを崩したい。
「来たか」

 中では、井上が全力待機していた。

 諦めればいいものを。

「どうして呼ばれたかわかるな?」
「あのね、センセイ。紙をなくしたから出せなくて」

 苦し紛れの言い訳だ。

「新しいのを用意しておいた」

 クッソ。時間稼ぎにもなりやしない。

 できれば進路以外のネタで切り抜けたい。

「あ……そうだ、センセイ」
「ん?」

 一応、話しておこうか。

「相談したいことがあるんですけど」
「なんだ」
「わたし。部活に入ろうと思って」
「ほう。部活に」
「今からでも入部届けって書けますよねー?」

 見飽きた進路調査のプリントよりも、入部届けのプリントくれませんかね。

「随分と余裕なんだな」
「へ?」
「部活してる暇あるのか」

 井上が椅子から立ち上がり、こっちに近づいてくる。

「怒って……る?」
「心配してるんだ」
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