闇色のシンデレラ
わたしは開け放された部屋の中を見た瞬間固まってしまった。


和室の奥、並んで座る2人の男女。


ひとりは翡翠(ひすい)色の着物を着た、柔らかく優しい面持ちの、優美で華麗な女性。


顔のつくりがなんとなく颯馬さんに似ていた。



一方、隣にあぐらをかいてこちらを見据える男性は、がたいがよく、オールバックという髪型が高圧的な雰囲気を漂わせている。


でも、志勇とはあまり似てない。



……ていうか、若い!


特にお母さん、とても20代の息子を持つ母親とは思えないほどお若い。


故にぽかんと、柳眉(りゅうび)な女性の魅力に呆気に取られていた。


すると。


「……」


ギン、と効果音がつきそうな勢いで組長さんに睨まれた。


見慣れている志勇よりも強い圧力に構えていたつもりでも(すく)んでしまった。


すると横に並ぶ彼女は組長さんの手に自分の手を重ね——



「……冬磨(とうま)?」



ふわりと、笑ってみせた。



「っ……」



……なんという破壊力。


その笑みは、組長さんの眉間のシワをほどくほど。


完璧すぎる笑顔に目のやりどころに困った組長さんは、わたしから視線を外して「座れ」と命令した。


まず、志勇が組長さんの正面に座る。わたしはその後に座った。


さっきから組長さんにはものすごいプレッシャーをかけられ、ドキドキしていると彼は口を開いた。




「俺は荒瀬冬磨。ここにいるのは紘香(ひろか)だ」



彼はまた不機嫌そうに眉根を寄せたけど、隣に並ぶ紘香さんは目を細め、わたしに向けて笑みをつくる。


ああ、やっぱり絶世の美女だ。


志勇の歳から逆算したらおかしいけど、どう考えても30代前半に見える。



「親父、壱華だ」



今度は志勇がわたしを紹介する。


えっと、なんて言えばいいんだろう。いつもお世話になってます、これは違うな。ふつつか者ですが、いや、別に結婚する前提じゃないし。


とにかく志勇が目配せしてきたから、挨拶をしなきゃと畳に両手をついて、頭を下げたところまでは完璧だったのに。



「は、初めまして。相川壱華です」



……いきなり噛んだ。
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