闇色のシンデレラ
SIDE 志勇


「今日は、えっと、お呼びいただいて、ありがとうございます。
それから……ご挨拶が遅れて申し訳ありません」



耳まで真っ赤になってる壱華が可愛い。


緊張のせいか、どもりながら視線を泳がせる初々しさがたまらねえ。



「この3ヶ月の間、ずっと志勇、さんにお世話になっていました。
こんなわたしを拾ってくださったこと……彼にとても、感謝しています」



深く頭を下げたままの壱華の指先は、少し震えている。


掘り返したくない過去を思い出してしまったのか。


訪れた沈黙の最中(さなか)、抱きしめたい衝動に駆られた。



「志勇」



しかし衝動は実行することなく終わり、沈黙を破ったのはこの空間の主。


いつになく低く響くような声で俺を呼んだ、親父だった。




「……来い」



続いてその口から出たのは命令の言葉。


……壱華の挨拶はまるっきり無視か。そこまで毛嫌いすることはねえだろ。


むかついて親父についていくのをためらった。


しかし若頭といえど、長の命に逆らうことはすなわち掟に反することを意味する。



「すぐ戻る」



俺には壱華に一言残し、客間から立ち去るしかなかった。
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