闇色のシンデレラ
「あなたの言っていることはそれと同じよ。
組のため、邪魔者を排除し高みを目指すため、犠牲を出そうとしている。
その犠牲となる人物が、志勇にとってどれほど大切な存在か知らずに」



この世界では、犠牲や裏切りは付き物であるとオヤジは心得ている。


しかし、荒波に身を捧げた屈強たる男でも、心に決めた唯一の女は離さなかった。




「冬磨も、そうでしょう?
何の取り柄もないわたしを選んで、居場所を作ってくれた。
わたしに生きる道を示してくれた。

だから志勇も同じように、あの子を選ぶの。
かけがえのないひとつを、志勇は見つけたの」



彼自信も多くの批判や反対を押しきり、姐さんを(めと)ったのだ。


そのため、志勇がイバラ道からただひとつを見つけたとならば、非難はできない。



「冬磨」



何より、力強く語る彼女は、一段と光輝いて見えた。



「あの2人を引き離してはだめよ」



姐さんは勘が鋭く、第六感が特化しているといってもいい。


彼女の直感は正確で、一目で対峙した人間を黒か白か見分けることができる。


つまりシンデレラは彼女が受け入れた娘だ。


否定のしようがない。





「あの子はきっと……志勇の唯一になるわ」




断言した姐さんは、愛する男の頬にゆるやかに指を滑らせた。



「野暮なこと、考えないでね」

「……ああ」



本当に、シンデレラストーリーは成立するのだろうか。


今日初めて見受けた彼女は、謙虚で品があり、悪く言えば弱々しく頼りない雛鳥(ひなどり)のようだった。



ただ、忘れられない。


彼女の瞳が、曇りなき深い黒の瞳が、目に焼きついて離れない。


不思議なほどに、強い光を放つ、澄んだ眼の持ち主だった。
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