闇色のシンデレラ
「壱華」



手を握り名を呼ぶ。



「分かるか、俺だ」



一変して放心状態で俺の顔を見る壱華は、その瞳に何色も映していない。


ただ小刻みに震えひどく怯えている。



「俺を見ろ」



青白い壱華の頬と、痛いほど無音の空間。


壱華が応答するまでの一瞬を、これほど恐ろしいと感じたことはない。



張り詰めた静まり返る空気の中、震える唇が微かに動いた。




「……志勇……?」



壱華が俺を呼んだ。


壱華の瞳が色を取り戻した。



「志勇……」

「……壱華」



お互いを呼び合い、視線を逸らさぬよう見つめ合う。


抱きしめなくともこれが一番の方法だ。


壱華は何より自身を認める存在を探し求めている。


それを確かめる方法が、目を背けないで視線を絡ませ合うことだ。




見つめ合うこと数秒。



糸が切れたように俺の胸へ体を預ける壱華は、眠りに落ちるようにして気を失った。
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