闇色のシンデレラ
どうしたんだろう。志勇が浮かない顔をしている。


もしかして、またうなされていたのかな。






『逃げろ。お前の居場所はここじゃない』





……いや、違う。


悪夢を見るより恐ろしいことが起きた。


もう二度と会うことはないと油断していた、理叶と光冴が魔の手を伸ばしてきたんだ。


まだあいつらは近くにいるのかもしれない。


そしたらまた、わたしは壊れてしまうかもしれない。




「壱華」



ふと頭の後ろで柔らかな刺激を受け取ったと思うと、突然視界が暗くなって前が見えなくなる。


思わず息を止めて体を固くすると、振動して伝わる志勇の声。



「安心しろ、ここには俺しかいない」



なんだ、わたしは志勇に抱きしめられているのか。後頭部の感触は志勇の手のひららしい。


ベッドサイドから身を乗り出してわたしの頭を自分の胸へ押しつける志勇。


ほっと息をつくと、いつもの志勇のにおいがする。


いつもならこれから呑気に二度寝をしてしまうわたしだけど、今日は状況が異なる。




「あっ……嫌!」




志勇の言いつけを守らなかったばかりにわたしは出会ってしまったんだ。


黒帝という悪魔に。


それにより精神崩壊を引き起こし、志勇をはじめたくさんの人に迷惑をかけ、挙げ句の果てに気を失った。


そんな身勝手なわたしが、志勇の胸に抱かれる資格なんてない。
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