闇色のシンデレラ
「壱華」



眼から零れ落ちた雫が信じられなくて、もう一度瞬きをしたとき、志勇の微かに震えた声が胸に響く。


顔をあげると、ぼやけた視界の中に飛び込んできた志勇の驚いた顔。


その目はひどく悲しい気がした。


わたしが泣いたせいで志勇に不快な思いをさせてしまっんだ。そう思ったわたしは涙を拭おうとした。



その刹那、志勇の瞳が妖しく光り、口角がわずかに上がった。







「誰が捨てるかよ」





涙を拭おうとしようとしたわたしを、突然抱きしめてきた志勇。


強く強く、絶対に逃げられないように力を込めて。



「そんな気は毛頭ねえって、何度も言ってんだろ?」



なんでだろう。


言葉は乱暴なのに、力が強くて痛いのに、すごく気持ちいい。


すごく安心する。




「お前の代わりなんていねえ。
お前以上の女なんかいるはずがない」




耳元で囁かれる力強い声。


嘘じゃないんだって、全身が歓喜に震えた。




「お前は俺の唯一だからな」




もう苦しくなんてないのに涙が止まらない。


すると志勇は声もなく泣き続けるわたしの体を引き離し、追い討ちをかけるようにこう言った。


それはわたしの闇を一切合切洗い流す魔術だった。






「俺はお前のために生きている。
俺が生きる上での存在意義は壱華、お前だ」




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