闇色のシンデレラ
廊下を道なりに歩いていると、やっと中庭が見えてきた。


ほっと息をついて歩く速度を遅めたところ、耳にしたのは女性の声。




「もう、絋香さんったら~」



それと、テンション高めの女子の声。あれ、もしや客人って。




「ふふっ、涼ちゃんがいい子だからよ」

「やだー、そんなこと言ったら調子に乗っちゃいますよ」



そういえば涼とは繁華街に出かけて以来直接は会っていない。


中庭に面する、この屋敷では珍しい板の間で、中央に置かれた椅子に腰かけるお母さんと、その脇に立つ涼が笑いあって談笑中。




「あら、壱華ちゃん」

「え、壱華!?」



すると涼がぐりんと首を回し───



「壱華、壱華じゃない!」



目にも止まらぬ速さですくっと立ち、腕を広げて突進してきた。



「ちょ、ちょっと待って涼。ストップ!」

「おっと、ごめんごめん。久しぶりでテンション上がっちゃって」



ギリギリで止まってくれた涼は舌をペロッと出して可愛らしく謝罪。




「で、こんなところでどうしたの?お茶なんか持って」

「あ、わたしね、今日からここで働くことになったの」

「へ?」

「そうはいってもお手伝い程度なんだけどね。
とりあえず、今年の年末までお昼はここで働こうかなって」



ここにいる理由を訊かれたので答えると、表情豊かな涼はあんぐり口を開けてお母さんと視線を交わした。





「……絋香さん、駄目ですよ」

「あら、何がかしら」

「こんな可愛い子をメイドがわりにしたら、本家に男が押し寄せちゃう!」




……いやいや、そんなことないから。


思わず突っ込もうとしたところ、椅子に座ったお母さんは優雅に微笑んだ。



「大丈夫、志勇が寄せつけないわ。あの冬磨の子よ」



そして自信ありげに断言するものだから、妙な説得力に納得。


さりげなく組長さんとつなげるところがお母さんらしい。


ああ、わたしもこんな風に志勇への気持ちをもっと自由に伝えられたらな。
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