闇色のシンデレラ
「涼、その……」

「謝らないで。壱華は何ひとつ悪くない」



ところが、手のひらを突きだして制止をかけられた。


……なんで謝るって分かったんだろう。まだ何を言ってないのに。



「分かるのよ。壱華は他人に謝るとき、男が襲いたくなるような顔をするから」

「……はい?」

「男相手に、上目遣いで目を潤ませて謝罪されたら、狙ってんのかって、対象がみんな猛獣になっちゃうってこと」



男を狙う?何言ってるの涼!


人見知りなわたしができるわけない。それにそういうことは美花や実莉の得意分野だったから、自分からするなんて考えただけで気持ちが悪くなる。


実莉を思えば必然的に黒帝を思い出してしまうし。



「気をつけた方が身のためよ。壱華、自覚してなかったでしょ」

「……うん」



もう4ヶ月も前のことなのにまだ引きずっているわたしは、涼の指摘に曖昧な返事しか返せない。


しかし、彼女は次の言葉を強調し、わたしの意識をそちらに注目させた。




「壱華、あたしはね、たくさん嫌な思いをしてきたけど、この世界に生まれたことを後悔はしてないの」




その瞳は夏日を受けて力強く輝いていた。
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