闇色のシンデレラ
彼は頭を下げた状態で事情を語り出した。



「あなたを故意に傷つけた暴走族・黒帝——あの件は私にも責任があります。
どうか自分勝手ではありますが謝罪させてください」



……黒帝?


久しく聞かなかった悪魔の名前。


けれど耳にしたところであいつらに関して何も感じない。


ああ、そうか。わたしは辛すぎた過去を、黒帝の存在を記憶から消そうとしているんだ。



「つい最近、弟からあなたのことを聞きました。
あの日、助けを求めに来たあなたを、自分は信じてやれなかったどころか、根拠もなく追放したと」

「……弟?」

「……はい。実はあなたが以前まで勤めていたバーのオーナー……あの男は私の実弟です」

「……」

「弟があのような判断をしたこと、兄である私にも負い目があります。
誠に申し訳ございませんでした」



オーナー、か。


思えば、バーで働いていたあのときは幸せだったかもしれない。


彼はヤクザとは思えない優しい人で、薄暗い店内で、あたたかく迎え入れるように、わたしの前ではなるべく笑顔でいてくれた。


色んな面で優遇してくれて、無表情で人付き合いの悪いわたしを、気の利く働き者だって褒めてくれた。


18歳になったら正式に店員として頑張ろうなって将来を保証してくれて、どれだけ嬉しかったことか。



しかし、それは遠い昔の話。あの日を境にそれは(もろ)くも砕け散った。
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