闇色のシンデレラ
あんな過去はわたしにとって忌むべきものでしかない。


あの出来事により歪んだ心は更にひずみを拡げ、ついにわたしは闇の深淵(しんえん)に落ちた。


そのときに純粋で綺麗な心なんて捨てたから、彼の謝罪を許すほど優しくなれない。



「……何の話をしているんですか」



だからわたしは冷淡に言葉を放つ。


見えないトゲを刺すかのごとく無感情に。



「顔を上げてください、わたしにはあなたが謝る理由が分かりません」

「……」

「顔を上げて」



強気な口調で言えば、彼ははっとしたように頭を上げた。



「過去の罪は、いくら償おうとしても払拭できないものです。
誰に何を言われようともわたしの過去は書き換えられない。記憶に永遠と残るでしょう。

だからわたしは彼らと一切の関係を断つ。
黒帝は、わたしの中で過去の人間でしかありません」



過去は過去。やっと決別しかけたそれを掘り返さないよう、張り詰めた表情の司水さんを見て自分に暗示する。



「謝らないでください。わたしにはもう関係のない話です。それに……」



それに、わたしは司水さんを恨んでいるわけじゃない。


何も憎んでなんかいない。


わたしには今を生きるため、泣いて他人を恨むエネルギーがあるなら、もっと大事なことにその力を使いたいんだ。



「今のわたしには、大切な人がいます。
彼の存在以外は何もいらない。
あの人の傍にいられるのなら、これまでの苦痛を押し殺してでも生きて行きます」



闇色に染まったシンデレラは心に決めた。



「たとえ、この道の先で彼に裏切られようと、道具として利用されようと構いません。
それだけわたしはあの人に——志勇という存在に、溺れているから」



どうせいつか尽きる命なら、全てをあの人に捧げようと。


あの人のために人生を全うできるのなら、こんな命いくらでもくれてやる。
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