闇色のシンデレラ
「あなたが責任を感じることはないと思います。気兼ねしないでください
それから、わたしも謝ることがあります。
今日は出会い頭に挨拶もせず立ち聞きするような真似をして、すみませんでした」



わたしも今朝のことを彼に謝ると、司水さんはいたって冷静に受け答えた。



「ああ、そのことですか。大丈夫ですよ、皆が知っていることなので」

「……知っていること?」

「はい、今日はわたしの兄の月命日なんです」

「……」

「組長の元側近で、以前にお話をしたように、憂雅の父親である男。
名を、湊人。わたしが最も尊敬する男のひとりです」



組長さんと話をしたときと同じように微笑む彼は、心の奥で何を考えているんだろう。


それも建前の表情なのか、付き合いの浅いわたしには分からない。


すると彼はそんなわたしの気持ちを察するようにやわらかく笑って声を放った。




「わたしはオヤジを恨んでなどいませんよ」

「え……」

「恨むわけがありません。むしろあのような方に長年連れ添った兄が羨ましい。

あの方は、5年経った今でも、兄以上の男はいないと言うのですから。
なんだか、わたしが兄に嫉妬してしまうくらいですね」



その表情は生き生きとして見えた。



「お気遣いありがとうございます。
大丈夫ですよ、わたしは明確な目標がありますから。
兄の精神を継承し、いつか彼を越えるという大きな目標が」



今は亡き側近を想う主と、兄の背を追いかける弟。彼らの心には今でも湊人という男は生き続けているんだ。


そう思うと、なぜだか心が安らいだ。
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