闇色のシンデレラ
「今日は若干司水のにおいが強かったが、まあ許してやるよ。
厨房以外の仕事の案内は、俺があいつに任せたからな」



本当に他の男のにおいをかぎ分けられるらしい志勇は、見事いっしょにいた人を当てた。


まさに狼みたい───って関心してる場合じゃなくて。



「志勇が任せたの?司水さんだって忙しいのに」

「忙しい?どうせ親父はおふくろから離れねえから暇だろうし、司水のあの性分じゃ、働きづめの方がいいんだよ」



志勇は俺が一番あいつのことが分かっているといいたげに笑った。


まったく、司水さんだって4歳になる子どもの父親なんだから大変なのに。






「今日は特に、な」





そんなとき、志勇の口からこぼれた意味深な呟き。


そうだった。今日は司水さんのお兄さんの月命日。


志勇は分かってるんだ。亡くなった者の、残された家族の苦しみを。


司水さんを大切にする志勇の大きな背中は、思い出の中の優しかった叔父さんと重なった。


わたしは彼の隣にそっと出て、オレンジ色の世界を、2人で寄り添って歩いた。
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