闇色のシンデレラ
志勇に抱き上げられたようだと感覚で分かったけど、なぜかめまいがして目を閉じた。


貧血を起こしているのかもしれない。




「おら、立て!」

「うぁ……」



ところが鈍い物音に閉じていたまぶたを開いた。


映ったのは、暴行される襲撃者。


車から降りてその男を捕まえたと見られる剛さんを中心に、輪になって殴る蹴るを続けられている。


既に顔は原型をとどめておらず、身体中のあちこちから流れた血は白いシャツに大きな赤い染みを滲ませている。




「……剛」

「誰に手ぇ出したのか分かってんのか!あぁ!?」



人が殴られる音。あの日とよく似た怒りの台詞。吐き気がした。



「剛」

「あ……若?」

「車を出せ。急げ」

「へい!」



しかし彼の勢いは志勇によって鎮められ、安心したわたしはその胸の中で暗闇に落ちた。


この人のぬくもりを感じていられるなら、痛みも和らいでくる気さえする。


だけど直前に視たものが、強烈に脳裏に焼き付いてしばらく離れなかった。




なぜだろう。


剛さんの手から乱暴に放され、アスファルトに打ち付けられた襲撃者はの顔は、安堵の表情を浮かべていた。


まるで悔いはない、己の役目を果たしたというような、安らかな表情だった。
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