闇色のシンデレラ
SIDE 志勇



「出せ」

「へい」



急発進した車。


玄関先で捕らえられ死にかけている、壱華を襲った男とすれ違い、本家から遠ざかった。


胸の中には壱華がいる。


時折苦痛に顔を歪ませ、浅く息をして、冷や汗を額に浮かべる壱華がいる。



腕を撃たれた程度で人はそう簡単に死なない。


出血したとはいえ、すぐに止血した。医者に診せれば大事にはいたらないだろう。


そうだと分かっているのに、この焦燥感はなんだ。


頭では理解しているはずだが、壱華の血塗られた腕を見ると、正気でいられなくなりそうだ。





「……くそっ」



あまりにも突然だった。


認めたくなどないが完璧な奇襲にかけられたのだ。


荒瀬の本拠地に※鉄砲玉を送り込む組織など、ましてや命令に忠実に従い実行する人間など、いるはずがない。


それは極道の世界では当然であり、暗黙の了解であった。





だが、現在のこの状況で、それを破る存在がただひとつあった。


残虐極まりない型破りな極道。


人は奴らをそう呼ぶ。


間違いない。あいつらだ。






北が、動き始めた。








※鉄砲玉……ヤクザの世界において、組織に敵対する人間を殺害する役割を担う者。命の保証はない
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