闇色のシンデレラ
SIDE 壱華
『ねえ、壱華。わたしは将来、あなたに恨まれることにのかしら』
誰かに両手を握られている。とてもあたたかい手。
『わたしの子どもとして生まれたことに後悔する?ママにそっくりなその顔で、いつかわたしを責めるの?』
誰なんだろう。逆光で顔が見えない。
『そんなわけないだろ、カンナ。
君の子だ。きっと壱華は君によく似た、優しい子に育つよ』
目を凝らしても見えない対象に気を取られていると、大きな手がぽふっと頭に置かれた。
見上げると、叔父さんらしき人が立っていた。
『な、壱華。俺もお前も、ママが大好きだもんな』
違う、叔父さんじゃない。叔父さんによく似た男の人がわたしの頭を撫でている。
不思議な感覚。きっとこれは夢だろうな。
ところがあたたかな空間は一瞬で冷え冷えとした暗い廊下へと変わり、どこからともなく声が聞こえてきた。
『だから何なの?身元も知らない子どもをいつまで預かればいいのよ!』
『大きな声を出すな。子どもたちが起きる』
『ふざけないで。わたしの子どもは美花と実莉だけよ。壱華なんて子どもは、わたしの子じゃない!』
『いい加減にしろ。壱華を俺たちの養子として育てることは既成の話だ。
あの子がせめて自立するまでは、俺たちが責任を持って育てると』
『わたしが言ってるのはそういうことじゃない!あの子は誰の子かって聞いてるのよ!
あなたは赤の他人が産んだ子どもを拾ってきたわけ!?』
おばさんと叔父さんがリビングで喧嘩をしている。
そういえば叔父さんは死ぬ間際になっても、わたしの両親のことは語ってくれなかったな。
誰も教えてくれない出生の秘密。
わたしはいったい、何者なの?