闇色のシンデレラ
誰なのかは、おおよそ予想はついている。


この病棟に入れるのは医療関係者か身内くらいだ。


俺の予想ではおそらく後者だからここから動かなくてもいいが、壱華が目を覚ました以上、室内に入れさせるわけにはいかない。




賢い壱華なら、今回の件が裏付けになってそろそろ勘づいているはずだろう。


どうして自分の命が狙われたのか。


そして、狙われるほどの自分の存在価値は何かと。






壱華には、壱華も知らない大きな秘密がある。





秘密を知られてしまえば、壱華は俺から離れる道を選ぶかもしれない。


それほど重大で複雑な事情だ。聞かれたくない。


そのため離れることを決めた俺は、そっと壱華の頭を撫でた。




「少し待ってろ。すぐ戻る」



廊下に出るとセンサー式の照明が辺りを照らす。


出くわしたのは3人の男───司水、颯馬、剛。



「兄貴……」



俺の顔を見るなり最初に口を開いた颯馬は眉を寄せて険しい表情をつくる。


他2人は口をつぐみ、俺の言葉を待っている様子。




「壱華が目を覚ました」




状況を伝えると3人はそろって肩の力を抜いた。


颯馬と司水は顔を見合わせ「よかった」と呟き、剛なんかは張り詰めた表情をほどき、安心したといわんばかりにため息をついた。


こいつら、普段は人が死んだって表情ひとつ変えねえくせに。


壱華は特別、ということか。身内ながら気に入らねえな。




「……で?」



だが、お前らは本来の用事があってここを訪ねたのだろうから、許すとしよう。


まさか壱華の安否を確認するだけのために、本家から抜けてきたわけじゃねえだろ?
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