闇色のシンデレラ
彼らは敵ではないはずなのに、志勇の表情にはゆとりがない。


尋常ではない様子に気圧され、にこやかだった院長先生まで口をつぐんでしまった。



「志勇……」



結局この場で彼を鎮められるのはわたししかいなくて、膝の上で固く握りしめられた志勇の手に、自分の手を重ねた。




「悪い……しばらく、二人きりにしてくれ。壱華と話がしたい」



志勇の口から出たのは切実な懇願だった。


先生たちは志勇の命令に従って静かに病室から姿を消した。






「お前のこの傷な」





二人きりになってしばらくして、志勇はわたしの左腕を見ながら呟いた。




「一生残るそうだ」



声には感情がない。


だけど瞳は悲痛に揺れていた。


抑えきれない彼の感情に、負傷した腕よりも、胸の奥がズキリと傷んだ。



「それはあくまで傷跡を消すために手術を受けない場合の話だが、どちらにしろ長い間お前の体には銃創(じゅうそう)が残ることになる」



わたしは自身の左腕を見た。


二の腕の部分に白い包帯が何重にも巻かれた、生っちろい細い腕が見える。



「やったのは極山会と呼ばれる組織の三下。
命令したのは極山会の若頭。
そいつは5年前、親父の側近を殺した張本人だ」



こんな非力な腕を傷つけた元凶が、志勇のいう極山会という組織。


それはわたしでも聞いたことのある、三大暴力団のひとつ。荒瀬組と同じく、とても大きな極道一派。


そんな連中になぜわたしが狙撃されたのか。


理由は分からない。だけどいつかこんな日が来ることは分かっていた。
< 260 / 409 >

この作品をシェア

pagetop