闇色のシンデレラ
優しく呼びかると彼はゆっくりと振り返り、荷物を置いて、腕を広げて抱きしめてくれた。



「ただいま」



いつものにおいと、いつものぬくもり。


わたしに安心というものを感じさせてくれる。



「暑かったでしょ。おつかれさま」

「ああ……」



おつかれ、の意味で背中をポンポンとなでると、志勇はふと体を離し、首を傾げて視線を合わせた。



「お前、風呂入ったのか?いい匂いする」

「うん、志勇が帰ってくるまでと思って掃除してたんけど、ちょっと動いただけで汗かいちゃって。気持ち悪くてシャワー浴びたの。
志勇もついでだからシャワーする?」

「いや、さっき浴びてきた」

「どこで?」

「事務所。ちょうど引き継ぎもしてえから寄ってきた」

「引き継ぎ?」

「明日の仕事についての引き継ぎだ」

「……なんで?」




なぜ事務所に寄ってきたらしいのか不明で、質問ばかりするわたしに、志勇は笑った。


その笑顔はわたしが初めて見る笑みであった。



獲物を狙う狼の熱のこもった瞳に、自然と零れた白い歯。


妖艶で美しくて、危ない微笑み。







「お前を喰べるため」






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