闇色のシンデレラ
……喰べる?
その言葉の意味を理解する前に、志勇の顔が近づいてきて、とっさにわたしは言葉を発した。
「あ……待って」
「俺は散々待ったぞ?」
ところが体をひょいと抱き上げられ、彼は移動し始めた。
突然の出来事に心臓が飛び跳ねる。
バクバク制御の効かない心臓。すると、そこで志勇から思いもよらない言葉をかけてきた。
「腹くくれ。俺だって緊張してんだよ」
緊張?あの志勇が?
ありえないと思いつつよくよく耳を澄ませてみる。
……本当だ、志勇の心臓の音がいつもより速い。
でも、なんだろうこの気持ち。
「……」
「なんだその微妙な顔」
「志勇も緊張するんだ」
「どういう意味だコラ」
「ん?悪い意味じゃないよ。ほら、志勇いつもクールぶってるから、そんな人が緊張してるなんて聞いたらおかしくなっちゃって。
ふふっ、なんか緊張ほぐれた。安心した」
女慣れしているはずの志勇が、こんなに緊張しているなんて、自分が大事にされている気がして嬉しくなった。
その照れを隠したくて笑ったら、今度は拗ねたような志勇の声がした。
「馬鹿にされてる気しかしねえが……」
その瞬間、背中が地面について、視界全体に志勇の綺麗な顔が映し出される。
それほど至近距離に志勇の顔があった。
「ここまで来たらもう逃げ場はねえからな。
今の発言は大目に見といてやるよ」
ついにベットに運ばれ、志勇はわたしに覆いかぶさって優しくキスをする。
「壱華、好きだ」
「っ……」
初めて直接「好き」と言われ、幸福という感情を知った日。
その日、わたしは志勇に抱かれた─────