闇色のシンデレラ
もはや苦笑いもできないでいると、キラリと視線の隅で何か光った。


見ると、兄貴の腕に見知らぬ腕時計が。



「兄貴それ」

「あ?これか。壱華からだ」



それは壱華ちゃんが誕生日プレゼントとして渡す予定だった、黒を基調とした高級時計。


嬉しそうにつけちゃってさ。


兄貴、女からもらった贈り物は絶対身につけないくせに、壱華ちゃんからもらったものはちゃっかりつけてんだ。


微笑ましいというか、壱華ちゃんバカというか。



「とにかく、準備が出来次第本家に来るように!来なかったら俺が親父にどやされんだからな!」

「ああ、分かった分かった。いずれ行く」

「いずれじゃねえ!今すぐだ!
剛と駐車場で待機してるから来いよ!」



気を取り直して勧告し、適当に返答されたのを最後に、バタンと扉が閉められた。



「ったく、弟への気遣いはないのか!」



どうせ聞こえないからと文句をつけて、それからエレベーターへと向かう。





「なんだ……?」



マンションの廊下の窓から下を見ると、道路沿いに3台の族車が停まっていた。


理叶たち黒帝か?いや、あいつらは兄貴のマンションを知らないはずだし。


なぜか空を仰ぎ見てこちらと目が合ったように見えたけど、まあ偶然だろ。


そのときの俺は、若頭補佐にあるまじく、まるで危機管理がなっていなかった。


3台のバイクは行き過ぎた。
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