闇色のシンデレラ
しばらく護衛の人に囲まれながら並んで歩いていると、パタパタと草履の音が近づいてきた。



「志勇様っ!」

「私もご一緒してよろしいですか~?」



甘ったるい香水の臭いが漂ってきたと思えば、参道の脇から女が2人、その護衛と見られる男が数名確認できた。


そのきらびやかな着物姿と、付き人がいる様子から、彼女たちもどこかの組のお嬢なのではないかなと予想した。



「壱華、気にとめる価値もない。行くぞ」



知り合いなのかなと志勇を見上げると、彼は耳打ちをして進むよう促してきた。



「志勇様、待ってください!」

「ご挨拶だけでも!」

「触るな、気持ち悪ぃ」




彼女たちが本家の護衛をかいくぐって触ろうとしても、志勇は冷たく跳ね除ける。


なるほど、志勇の嫌いな人種みたいだ。わたしもこの人達、香水がキツイから苦手だ。


甘い臭いはあの姉妹を彷彿(ほうふつ)とさせる。



「なんで?せっかく来たのにそれはないでしょ」

「あの女がいるから……ちっとも志勇様に釣り合う家柄じゃないのに」



じきに志勇に向けられていた憧憬(しょうけい)の目はわたしへと憎悪に変わった。


進み出して、すれ違おうとしたところで、急に力強く引っ張られた。


袖を掴まれてしまったようだ。



「わたしがダメで、なんであんたはいいの!?」

「シンデレラなんてもてはやされて調子乗ってんじゃないっての!」



志勇の断固拒否の態度に女たちは逆ギレしたようだ。


どうしようと思ったそのときだ。





「……正月からうるせぇな。身の程をわきまえろ」





とても懐かしい声が、少し遠い位置から聞こえた。
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