闇色のシンデレラ
不意に身体の自由が利かなくなる。


平衡感覚を失い、地面に滑り込むように転がりこんだ。


右の太腿の裏に激痛が走る。撃たれたのだ。



「壱華!」



しかし、俺は己の容態など見向きもせず、一途に壱華を見ていた。


壱華は座り込んで泣いていた。


傍らには、撃たれたのだろうか。赤髪と潮崎のガキが横たわっていた。


アスファルトの上に2人分の血だまりができていた。




「壱華!」

「……志勇?」



ようやく呼びかけに答え、視線を絡ませた壱華に寄ろうと、渾身の力を込めて立ち上がった。



「志勇……撃たれた、の?待って、そっちに行くから!」



壱華も立ち上がろうと腰を浮かせるが、ふとその後ろに人影があるのを見た。


壱華はこちらに気を取られて見えていない。



「……やめろ」



それは、立ち上がった壱華の背中に何かを突きつける。



「やめろ!」



刹那、壱華は吊っていた糸が切れたように倒れ込んだ。


背後に立つ人間の手には、まだ電流が流れたままのスタンガンが握られていた。


そいつはそれを仕舞うと、気絶した壱華を抱き上げた。



「クソッ!壱華に触るな!」



動かない足を引きずりながら、警告する。


その人間は一瞬動きを止めたが、最後の銃声が響いた後はどうなったか見ていない。


今度こそ俺は立っていられなくなった。


俺は再び背後から撃たれた。左肩だった。



「ぐっ……壱、華!」



それでもなお、俺は唯一の名を呼び続けていた。
< 321 / 409 >

この作品をシェア

pagetop