闇色のシンデレラ
「相川亮太は、お前の父親の双子の弟。
そいつは壱華の両親が死んだ後、お前を引き取り存在をかくまった」
「叔父さんが?」
「ああ、誰にもバレんよう、家族にすら孤児院で拾ってきた子どもだと説明し、秘密が漏洩せんよう自分の手で育てた」
そんなこと、知らなかった。
生き残った兄の子どもに責任を感じる必要はないのに。
知らず知らずのうちに、わたしの運命に巻き込んでしまったんだ。
「やけど、運の悪いことに相川は癌に侵され、命の危機にさらされた」
感情の起伏なく語る望月の口調が、逆にわたしの内に眠る様々な感情を呼び起こした。
「それでもなお、あいつはお前を助けたかった。
妻に、自分の死後、財産は全てやると言った。そんかし条件を突き立てた」
「条件?」
「その条件っちゅうのが、お前や壱華」
わたしの声は、小さくてか細くて震えている。
優しくしてくれた叔父さんを想うと、泣き出しそうなくらい、悲しくなった。息がつまりそうなほど、苦しくなった。
「『壱華を大切にすること。俺が死んでも壱華を追い出さないこと。
もし、この条件を破棄した場合、残った遺産は社会貢献として寄付に使用する』ってなあ」
わたしは唇を噛んだ。
どんな想いで、どれほどの愛情を持って彼はそう告げたのだろうか。
ああ、わたしは幸せだったんだ。
皮肉にも、彼が死んで10年以上の年月を重ね、この時初めてその事実を知った。感謝したくても、彼はもうどこにもいない。
「そりゃあ、金好きのあの継母からしたら、財産が他人のために使われるなんてたまらんやろ。あの女は二つ返事で条件を飲んだ。
ただひとつ……」
「……あの家族に、わたしが何者なのかという疑問を残して」
だけど問題は、彼の死後に待ち構えていた。