闇色のシンデレラ
長い沈黙が生まれ、俺は壱華を直視することができず、口をつぐんだ。


しばらくしてからやっと壱華を見ることができたが、目を見張った。


そして、後悔した。



「……なんてこというの?」



壱華は一心に俺を見つめて、今にも泣き出しそうな顔をしている。


声は弱々しく震えていた。



「死ぬなんて言わないで。わたしに許しを乞うこともしないくせに、勝手に死ぬなんて許さない」



口調を変え、痛いところを突いて、俺を罪から逃がさないようにして(くぎ)を刺す。


しかしそれは優しさの裏返しだった。


そうすることで、罪を償うため意地でも生きる道を選ばなくてはいけないから。




「逃げちゃだめ、生きて」



賢い壱華は、そんな形で俺に活を入れてくれたのだ。


結局俺は壱華に救われてばかりだ。


せめて感謝くらい伝えてもいいだろうか。



「壱……」

「さて、そろそろ行こか壱華。時間や」



しかしながら、それは叶わなかった。


病室の出入り口から、190cmはあるだろうか、大柄な男が入ってきた。


これが噂に聞く覇王か?


そいつは帝王に負けず劣らずの鋭い眼光と、獣のような荒々しい風格をしていた。



「また明日、来るから」



そいつに気を取られていると、壱華は椅子から立ち上がり、念を押すように告げて立ち去った。


俺は何か違和感を覚えながら、その後ろ姿を見えなくなるまで見ていた。
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